(ヨーキ×ブルック)
・・・・・・海のうえで、ヨーキを独占したい、と。ブルックは、思ったことはない。
何故なら『船長』である彼を、自分の恋欲のためだけに束縛するなんて。彼に命を、信頼を託している他の仲間たちに対して無礼極まりないからだ。
・・・・・・けれど、海から離れ。束の間とはいえ陸で休息するときぐらいは、『恋人』である彼を独占したいと想って何が悪いのだろうか?二人だけで一緒に居たいと願っては、いけないというのだろうか?
その気持ちを我慢できるほど、ブルックは大人ではないというのに。
「・・・・・・また。置いていかれた。」
留守番組である、ミズ―タ兄弟しかいない船のうえで。ブルックが落とした音は、とてもとても軽くて、空っぽで。ミズ―タ兄弟を、青ざめさせた。
「い、いやいや!すぐ戻ってくるって船長は!」
「そ、そうそう!かなり久しぶりの陸だから、ちょっと、はしゃぎすぎて出て行っただけで、すぐ戻ってくるって!!」
慌ててフォローに入る双子に、ブルックは。
「・・・・・・・お気遣い、ありがとうございます。大丈夫ですよ、私、気にしていませんから。」
普段、通りの声で言葉で応えて。船から、降りて行った。
そんなブルックの姿を見て。「「あちゃー」」と、双子は頭を抱える。
・・・・・・ああいうときのブルックは危険だ。
何故なら、ブルックは怒っていても怒りをそのまま、激情として現さない。
淡々、と。震え、逃げたくなる冷たさで怒りを現すだけだから。
「「いま、ものすごく、怒っているよな」」
だって、陽気な笑い声も鼻歌も全然ないまま。船から、彼は降りた。
その様子だけで、その淡々とした有り様だけで今のブルックの怒りが分かる。そして、ブルックを怒らせる原因となっている者の行動も知っているから、怒りの深さが分かる。
「「・・・・・だって。これで10回目だもんな、ブルックがヨーキ船長に置いていかれたの。」」
それだけ置いていかれて、いま始めて怒りを露わにしているブルックの我慢強さに感心しながらも。それだけ置いていくヨーキ船長に、呆れたため息しか出てこない。
「「追いかけてきてもらうのが、嬉しいからって。やりすぎだよな、ヨーキ船長。」」
必死で自分を探して、見つけた瞬間。ほっとしたように、嬉しそうに笑って駆け寄ってくるブルックの姿が好きだからといっても、やりすぎだ。
そして、そのやりすぎたツケが、今まさに払わされそうになっているので。ミズ―タ兄弟は、島にいるだろう船長に向かって合掌する。
((・・・・・今日は、どうかブルックがヨーキ船長に会いませんように!
でも、会わないで運よく過ごせても。あとで確実にブルックの怒りの制裁は絶対受けるから、ヨーキ船長、頑張ってください!!))
・・・・フォローする気が、全くない双子の祈りだが。まあ、ヨーキの自業自得な部分が大きいので致し方ないことなのだろう。
・・・・・・・さて。船から独りで降りたブルックは、ミズ―タ兄弟の祈りが届いているのか、ヨーキを探してはいなかった。
だって。いま、ヨーキと出会えばブルックは容赦なく、ぶちのめす。
そのことをブルック本人が一番よく分かっているから、あえてヨーキが居そうな場所を避けて。町の散策をして、少しでも気を落ち着かせようと努力していた。
(・・・・・しかし。あの人、一体何が目的で私を置いていくんでしょうね?)
首を傾げ、ブルックは自問自答する。
・・・・・・『ヨーキがブルックの事を嫌って置いていく』、のではないということを。実は、ブルックも分かっている。
ブルックを置いていくのは、彼に何かしらの理由があってのことなのだろうということも。分かりやすい人だから、薄々とブルックは察しがついている。
なので、ヨーキのブルックへの愛は微塵も疑ってはいない。が、納得はしていない。
当然である。恋人に放置されることを、納得できる者などいない。しかも10回も。
(とりあえず。いまは、私の感情を落ち着かせることに専念しましょう。
そうでないと、彼に会った瞬間。血祭りにあげてしまいそうです。)
・・・・・・・なかなかに物騒なことを考えて歩く、ブルックの眼に。色とりどりの花、が映った。
「・・・・綺麗、ですね。」
海のうえでは見かけることが難しい華やかな色の花が、所狭しと並べてあるのは圧巻だ。
暫し、足を止め。見とれているブルックに。
「あら、いらっしゃい。」
花屋の女性店員が、声をかけてきた。
その女性は太陽の色をした髪を纏め、琥珀色の眼を細めて。
「贈り、でお選びですか?」
笑う顔の雰囲気が、少しだけ。彼に、似ていたので。
「・・・・・・いいえ。
ちょっと、疲れることがあったので。気分転換に、自分用に花を求めにきたのですが。
お勧めは、ありますか?」
なんとなく、立ち去りがたくて。接客してもらうことにした。
「そうですね。これと、これなんかは香りが優しくて癒されると思いますよ。」
「へえ。それは、いいですね。」
「あと、他には・・・・。」
とても、親身になって(そんなに疲れた顔をしていたのだろうか、私は?)花を教えてくれる彼女と話しこんでいるうちに。だんだんとブルックの気持ちは、和らいでいった。
そうして。船から降りた当初では考えられないほどに落ち着いた心で、ブルックは。
「・・・・ありがとうございます。お嬢さん。
これと、これを貰いたいのですが宜しいですか?」
ひどく柔らかい、甘ささえ含んだ優しい笑みを浮かべ。花を、求める。
「・・・・・・っ!は、はい、ただいまお、持ちします!!」
その笑顔に見惚れ。赤くなった彼女は、たどたどしい声で答えて花を包む。
そうして包んだ花をブルックに渡し、代金を受け取ろうとした手にブルックは。
「これも、どうぞ。」
代金とともに、ハンカチで模した『花』を渡した。
即興で造ったものだが、なかなかの出来栄えのそれは。肌触りから、上等な絹でできていると分かるそれに目を剥く彼女から。
「今日。貴方に出会えて、私は幸いでした。」
断る言葉が紡がれる前に。真摯に、手を取り。
「私のなかにある嫌なことを全て、忘れさせてくれた貴方に。どうか、お礼をさせてください。」
心から、感謝の声を伝えれば。彼女の口から断わりの言葉は出ず、赤くなった顔で頷いてくれた。
「・・・・・・ありがとうございます。」
彼女が受け取ってくれたことに、ブルックは嬉しそうに礼を言い。先ほどよりも柔らかい、優しい笑顔を振りまいて「それでは。」と出て行ったブルックを。
彼女は全身赤くなったまま、いつまでも。いつまでも、見送っていた。
・・・・・・タラシをした自覚のないブルックは、とても穏やかな気分で花屋から出た数歩目で。
「・・・・・・おい。」
自分を置いていった男から、声を掛けられた。
「おや?ヨーキ船長、こんにちわ。」
この花屋に入る前に出会っていたら、確実にブルックは問答無用で殴っていたが。今は落ち着いた、凪いだ気持ちでいたので軽やかに挨拶した。
しかし、そのブルックの挨拶を無視して。苦虫を噛み潰したような顔をして、ヨーキは。
「・・・・・・・・・・・・・あの、女のほうが。いいのかよ。」
唐突に、問うが。
「は?」
何を言いたいのか、イマイチ分からず首を傾げるブルックに。
「花屋にいた女だよ!!」
苛々、と。ヨーキは、声を荒げる。
「?いい、方でしたが。彼女が、どうかしましたか?」
けれど、質問の意図が分からないブルックは。とりあえず良い店員だったから、そう正直に答えれば。
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
ひどく、ひどく焦った男の顔を見ることになる。
その表情を見て。ブルックは、ピン、ときた。
(・・・・・・・・・・勘違い、していますね。
私が自分を探さずにいたことを、探さずに彼女と楽しく話していたことを。そしてお礼として彼女に贈った品のことを、『いい方』という私の発言を。思いっっっっきり、勘違いしていますね。)
そのことに気付いたブルックは。とてもとても、にこやかな良い笑顔で。
「彼女は、本当にいい女性でしたよv」
思いきり、勘違いに火を注ぐ発言を落としてやった。
その一言で、唖然と固まり。動かなくなったヨーキから、さっさと離れていったブルックの口元は、ひどくひどく楽しそうであった。
(・・・・・・今日、一日。本当のことは言わず、虐めること、決定!)
・・・・び、微妙にリクから外れてしまい、ごめんなさい(土下座)
「いつもの仕返しに(紳士として)ブルックが女性と仲良く」という流れで書いていたら、なんだかブルック×ヨーキくさくなって(死ね)慌てて軌道修正した結果。
「ブルックが女性と仲良くしていたところを見て勘違いしたヨーキを、いつもの仕返しで虐めた」話に、変わってしまいました(汗)
・・・・・・こ、こんな話でも大丈夫でしょうか?ダメなら、一言くだされば書き直しいたします。
リク、ありがとうございましたクンミン様!
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