(ボス敵がヨーキだったバージョンで、ヨーキ×ブルック←ゾロ)













気味の悪い樹から生まれる、おぞましい実から現れた『人物』を目にした瞬間。



ふらり、と。



くすんだ陽光のような髪、洋酒めいた瞳、甘さを含んだ端整な顔立ちの『彼』を認識した瞬間。



ふらりふらり、と。



ブルックの足は、進む。・・・・まるで、帰るかのように。

「・・・・?おい、ブルック?知っている奴か??」

訝しげに問うゾロの声に。

「・・・・・船長、です。ルンバー海賊団の、ヨーキ船長・・・・・!」

返すブルックの声は、儚く脆く。そして耐え切れないように、嗚咽を零して。

また、ふらり、と。還っていこうとする、から。

「待てよ、ブルック!」

慌てて、行かせないように掴んだブルックの右腕の頼りなさに。彼の身体が骨だけとは分かっていても、触れたときのあまりの細さに。



(・・・・こんなに、『薄い』存在だったか、コイツ・・・・!?)



あんなにも普段はある『存在感』が、まるで目の前の男に奪われてしまったかのように。
あんなにも普段は曝している『心』が、まるで目の前の男に取られてしまったかのように。
いま、ここにいる彼は。抜け殻のように、決定的に欠けていて。

ぞっとした。

だから、叩きつけるように。

「っ!あいつは、『偽者』で!!俺たちの、『敵』だ!!!!」

ゾロが『現実』を叫んでみても、ブルックの頼りなさは依然として変わらず。

ふらり、ふらり、と。

足は、いまだ男のもとへと進もうとする、から。

「・・・・ブルック!!」

いい加減、分かれよ!!

そう、怒鳴る声に。ようやく返ってきた、声は。

「・・・・分かっています。ヨーキ船長は、もう、どこにも、いません。
 ・・・・判っています。偽者だって、判っています。目の前で化けられたんですから。
 ・・・・解っています。島の試練で、敵として現れた相手が、たまたま彼の姿をとっているだけだってことも。
 ・・・・わかっています。わかって、います。わかって、いる、はずなのに!!
 それでも・・・・傍に、いきたい、と。足が・・・・・止まらないんです!!!」

私の身体なのに、私の理解を受けいれないなんて!!!!

自分でもどうすることもできない、と。ままならない自身に失望した、絶望に濡れた告白だった。

「ブルッ
「ブルック!!」

そんなブルックに声をかけようとしたゾロより、強く。強く、呼びかけたのは。

「ブルック、だろう!!お前!!!」

元の面影なぞ、ほとんど残っていない変わり果てた『彼』を。それでも、『彼』だと見抜いて。

「・・・・ずいぶん、なりが変わっちまったが、久しぶりだなあ!!」

そして、その姿を恐れることなく。陽気、に男がブルックに笑いかけた瞬間。

「っ!!!!!」

ゾロの手を振り払って、傍に。・・・・ブルックは、かえってしまった。

・・・・・そうして、手を。
揺るぎなく、当然のようにブルックを求めて、差し出されたヨーキの手に。
縋るように、伸ばし重ねたブルックの手を見て。許さないとばかりに吠えたのは。




「・・・・ふざけんなよ、てめえ・・・・!!!」




怒りを隠しもしない、ゾロだった。

「お前は!俺達の仲間だろうが!!
 『敵』のもとに行くなんて、何、考えてやがる!!!」

その苛烈なまでの怒号に。ブルックの身体は、ようやく『現実』を悟ったかのように、ビクリ、と固まり。動きを止めたけれど。


それでも、二人。繋いだ手が、離れることはなかった。


「っ、ブルック!!」

ゾロの本気の怒りが込められた声に、ブルックが震えながら応えようとする前に。





「そう、いきりたつなよ。久しぶりの再会なんだ。・・・・・殺しあう前に、愛させてくれよ。」





落ち着いた、甘さを存分に含んだ声で。現実を、冷徹に見据えた言動を男が代わりに返して。
傍にある身体を愛しげに抱き寄せ、死者の人形は生者の骸に。愛しそうに、口づけを落とした。

「・・・・せ、船長!」
「はは、相変わらず、慣れねえな。」

そこが可愛いんだけどな。

惚けるように、蕩けるように。甘く甘くブルックに触れる男、めがけて。

「おっと。」
「きゃあああああ!!!」

容赦ない、斬撃が飛ぶが。
あっさり、と。ブルックと繋いだ手はそのままに横抱きして、ゾロの一撃を軽々と男はかわし。

「おいおい。恋人同志の逢瀬の最中に横槍入れるなんざ、無粋だぜ?」
「・・・・うるせえよ。」

飄々とした態度で、軽口をかえすが。しかし、剣を向けるゾロの瞳に宿る『仲間が敵のもとに行った怒り』以外の感情に気づくと。
飄々とした態度はなりを潜め、『何か』を確かめるように。探るように、挑発する。

「・・・・そんなんじゃ、ブルックにモテねえぞ?」
「・・・・・・・・・うるせえよ・・・・・!」

そして、返ってきた過剰な敵意に。気に入らない、とばかりに過激な殺意を返しながら。

「まあ、モテる前に俺が潰すけどな。」
「・・・・上等だ、てめえ・・・・!!!」

互いに、存在を許してはいけない『敵』だと認識しあう。
そして、暫し睨みあった後。さきほどのゾロの攻撃に驚いて、ヨーキの腕の中でいまだ固まったままのブルックに。

「それじゃ、ブルック。俺の勝利を待ってろよ。」
「ほざけ。ブルック、俺の勝ちを待っていろ。」

互いが、譲らない勝利宣言をし。そうして、ブルックが戦いに巻き込まれないように安全な場所まで運んでいった。


それから、暫らくして。


遠くから轟く、剣戟の音にて正気にかえったブルックが慌てて二人のもとに駆けつけても。
すでに戦いの行く末を見届けることしか許されていないブルックは、だからこそ気付けてはいなかった。










(『試練の戦い』は、すでに『恋の戦い』にすり替わっていることに。愛されている人だけが、分かっていない。)












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