(幽姫←影熊で影熊←幽姫)
ペローナに仕えている、可愛いのは姿だけで可愛くない声をしているクマシーに。ペローナは、いつだって厳しかった。
従順で、感情がほとんど欠落しているはずのゾンビですら見ていて「厳しいなあ」と思うほどに。
しかし、その考えが一転する出来事が起こった。
・・・・あんまりにも、クマシーに厳しいペローナに。そんなにクマシーの声が気に入らないならと、ホグバックがちょうど手に入った声が可愛い強者の影を、クマシーの影と入れ替えてやったのだ。
可愛いと気に入っていたクマの外見に、可愛い声。これなら、ぺローナも厳しくしないと誰もが思っていたのだが。
中身が入れ替わった、可愛いクマのヌイグルミゾンビの可愛い声を聞いた瞬間。ペローナは、殴りこんでいった。
「っ返せ!クマシーを、返せ!!」
それを言われたホグバックは、不思議そうに首を傾げ。
「?クマシーは、気にいらないんじゃないのか?」
「っ言ってない!そんなこと一言も言ってない!!返せ、返せ返せ!!!」
ガックン、ガックンと。ホグバックの身体を揺さぶり、抗議するペローナに。
「・・・・ペローナ様?」
いつだってペローナを怒らせていた、低い低い声が。ペローナの後ろから、控えめに小さくかけられた。
その声が耳に届いた瞬間。ペローナは動きを止めて、すぐさま振り返り。
モリアの命により、ペローナ付きの護衛隊長から、ホグバック付きのゾンビ兵になったクマシーに向かって。
「私の許可なく、どこに行ってたんだ!?」
なかなかに、理不尽なことを叫ぶ。
「あ、それは。」
しかし、それに慣れているクマシーは気にせず、説明しようとするが。
「しゃべるな、可愛くねえだろ!」
一刀両断されて、黙らされた。
「とにかく、さっさと私の護衛に戻れ!クマシーのくせに、ぐずぐずするな!」
厳しい言葉は相変わらずだが、躊躇わず自身の傍に。
可愛いものが大好きなはずなのに、当然のように可愛くない(今はクマのヌイグルミゾンビから抜かれ、ただのゾンビに入れ替えられているので尚更可愛くない)クマシーを傍に置こうとするペローナに。
(・・・・あー。そういうことか。)
野暮なことしたなあ。
生暖かな視線で見ているホグバックに気づいてないペローナは、さらに厳しい言葉を投げつけクマシーを困らせ、いじめていたが。
(・・・・好きな子ほど、いじめるってやつかあ。)
さらに生暖かな視線で、見守るホグバックの前で。モリアの命が最優先なために、なかなかペローナに従わないクマシーだったが最終的には、クマシーはペローナに従った。
そのクマシーの姿にホグバックは驚き、ペローナは上機嫌になっていたが。決してモリアの命に逆らえないはずのゾンビが逆らったことに、ホグバックは興味をそそられたが。
(・・・・あー、こいつもか。)
ペローナに一生懸命、嬉しそうについていくクマシーの様子を見て、興味を失った。
そうして、ホグバックの存在なぞ忘れたように帰っていこうとするペローナたちに思わず。
「・・・・痴話喧嘩は、余所でやってくれ。」
疲れたように言うホグバックに。
「?何のことだ?・・・・あと、クマシーの身体を元に戻しておけよな。」
不思議そうにペローナは、問い返したあと。クマのヌイグルミに入れ替えておけと、言い放ち出ていった。
(・・・・自覚、なしか。)
その後ろ姿を見送って。頭痛え、とため息をついたホグバックは。
(・・・・とりあえず。モリア様に、ペローナ付きに戻れという命をクマシーに下してもらおう。)
そうでないと、今のクマシーはホグバック付きの兵士であるために、もしかしたら帰ってくるかもしれない。
そうなると、またペローナが乗り込んでくることだろうから面倒くさいこと、このうえないから。申請に行こうと立ち上がったホグバックは、またため息をついた。
(しかし。あいつらが、恋、ねえ。)
一万歩、譲ってみても。想いあっている者同士には到底見えない2人なので、違和感しか感じないが。
(・・・・まあ。関係ないから、いいか。)
半ば投げやりな気持ちで、関わりたくない本音で思考を放棄し。遠くから聞こえてくる高い怒り声と、低い困り声を聞かなかったことにして、モリアの元へとホグバックは歩きだした。
(・・・・まわりくどい、難儀な恋愛劇なんぞに。誰が進んで、参加するものか。)
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