(鷹の目+幽姫)








いつもならミホークに勝手に話しかけ、傍で勝手に騒いでいるぺローナは。
今日に限ってミホークの傍で大人しくしていて、一言も話すことなく抗議するように頬を膨らませて、精一杯の恐い顔で睨みつけている。
しかし大剣豪たる男が、そんなことで怯むはずもなく。淡々とした声で、顔で。

「・・・うっとおしいぞ、ゴースト娘。」

冷たく斬り捨てられるだけである。
けれどその一言で更に頬を膨らませキツイ睨みをする彼女を、ミホークは相手にせず。ゾロに命じていた鍛錬が終わった頃だと見計らい、次の鍛錬の指示を出そうとぺローナを置いていこうとする。
それに着いていくことはせず、でもミホークが目の前から完全にいなくなる前に。



「・・・・私の名前は、ゴースト娘じゃねえ!覚えておけよ、バカ!」



いつもの癇癪に、一滴。黒く沈んだ感情を混ぜ落とした声を投げつけ、舌を思いきり出して言い切ったあと。

「バーカ!!」

捨て台詞を置いて、壁に溶け込みぺローナは姿を晦ました。
いつもなら、どんなに冷たいことを言おうがへこたれずに傍で噛みついて騒いでいる彼女が本当に居なくなったことに。
少しばかり拍子抜けしたような、少しばかり隣が涼しいような妙な気持ちのままミホークは。



「・・・・俺に、己が名を名乗っていないことを忘れていないか。あの娘は・・・・。」



ぺローナが、すり抜けていった壁を見ながら。冷静に、彼女の癇癪に対してのツッコミをしていた。
けれどそのツッコミを改めてして、名を聞こうものなら。さらにぺローナは癇癪を起こすだろうし、また姿を晦ますやも知れない。
それは何だか、面白くない気がするから。

「・・・・・ロロノアに、聞いてみるか。」

ミホークは彼女本人からではなく、第三者から聞く選択を決め。最初の目的とは違った足で、ゾロの元に歩き出した。
・・・・・普段の彼を知っている者ならば、名を教えてもいないのに名を呼べと理不尽に叫ぶ少女の要求に応えようとする姿に茫然自失することだろう。
けれど幸いなことに、このことを知っているものは誰もおらず。誰も知らないままで、ゾロから聞いた彼女の名を呼ぶミホークがこの後いた。
そして、呼ばれた名を聞き。嬉しそうにぺローナは笑ったあと、しまったとばかりに顔を歪め。取り繕うように。

「お、覚えてるなら最初から、そう呼べよな!
 ・・・・・・・まあ、でも。い、今から、ちゃんと呼ぶなら別にいいけど!」

素直でない言葉ばかり叫んでは、ミホークの傍で騒がしくしている。
そんな彼女の言葉を、行動を相手にはしていないけれど。でも逃げださないでいる彼女を見て、かすか笑っている彼を誰も気づいてはいなかった。






(・・・・彼女が、傍で騒いでいることが。己の日常として組み込まれてしまった事実。)









戻る