突然連れてこられたサッチを見て、白ひげは片眉を上げた。

「サッチがのろけを聞いてくれるそうだい。好きなだけ語っていいよい」

 親友の襟首を掴んでいる思い人の言葉に、白ひげは笑った。
 マルコが絶対に秘密にしていると言い続けていたので、白ひげも誰かにのろける事ができなかった。立場上の事もあり、言えるとしても相手を選ばざるを得なかったのだ。
もはやすっかり関係はばれていても、二人がきちんと宣言したわけではない。おかげで白ひげはストレスが溜まっている。

「グララララ! そうかそうか。いいぜ、のろけなら山ほどあらあ!」
「えええええええええ」

 白ひげは二人の身体を掴むと、そのまま膝に乗せてしまった。マルコが定位置の左脚、サッチは右である。サッチは両膝をろえて背筋を伸ばし、冷や汗をだらだら流している。

「その前に、サッチにゃ謝らなくちゃならねえなあ」

 ぼそりとした言葉に、二人は白ひげを見上げる。

「マルコは一番仲が良かったろ。だが、おれが獲っちまった。すまなかったな」

 意外な謝罪に、サッチは慌てて首を横にぶんぶん振る。

「いや、別に謝られることじゃねえし! まあ、普通に一緒にメシ食ったり酒飲んだりしてっから、あんまり変わらねえ。仕事中にオヤジの隣りにいるのも当たり前だしな。
 あ、たまーに飲みを断られっけど、あれって仕事か。
 それともオヤジのところに行くからか」
「……両方だよい」

 書類が溜まっている時、白ひげからの夜のお召しがある時、マルコは容赦なくサッチを蹴り出す。優先順位としては「白ひげ>海賊団運営>親友」である。
サッチもそれはわかっているので一応文句は言うが、すぐに引き下がる。

「けど、オヤジも結構トシだろ。頻繁じゃ、ねえよな。マルコは仕事で遅くなってる方が多いと思うんだけどな」
「ああ、そうだな。おれが呼ぶのは、月に何日かだなあ」
「大抵は続けてだねい」

 となると、1ヶ月のうちほとんどは仕事という事になる。

「……それじゃマルコが溜まんね?」
「そりゃ、溜まるよい。けど……おれはわがまま言いたくないんでねい」
「おれはかまわねぇと、ずっと言ってるんだがなあ」

 白ひげは深くため息をついた。その眼差しはとても真面目で、サッチは白ひげの隠れた不満を正確に見抜く。

「男としちゃあ、惚れた相手に欲しがられてえだろ」
「ああ、うん、わかるわかる」

 サッチがこくこくうなずく。買った女でも、もっととか早くとか言われると単純に喜ぶのが男だ。

「けど、こいつはおれが呼ばなきゃ来やしねえ。てめえだってやりてえ夜はあるだろうによ。自分で抜いてんのか?」
「……してねえよい」

 マルコはふいと顔をそらした。

「おれが溜まってねえと、オヤジは浮気を疑うからよい」

 マルコの浮気に関して、白ひげは大変心が狭い。息子ら全員を愛しており、彼らが陸に上がる時に女を求めて出かけるのを喜んで見送るが、マルコだけは許さない。

「もしマルコが女買ったら?」
「……思いっきりへこむか、マルコをその場で犯しまくるか、どっちかだろうなあ」

 考える白ひげに、マルコはため息をついた。
 多分、前者だろうと思う。白ひげは優しすぎて、マルコに危害を加えない。マルコが別れたいと言えば、黙って身を引くだろう。だからこそマルコも他者に肌身を許さず、女も買わないのだ。

「でも、それじゃあ結構溜まるよなあ。むらむらするんなら、オヤジにねだりゃいいだろうによ」

 さらっと言うサッチに、そう思うだろと白ひげは同意した。だがマルコは目を泳がせるばかりだ。

「オヤジに無理させられるかい」
「無理じゃねえっつってんだろうが。好きなだけいかせてやるぞ」
「……いかされるだけじゃ足りなくなるから言うんだよい」

 わずかに耳の縁が赤くなる。マルコが照れる姿など、他の隊長が見たら目を剥きそうだ。

「おれをオヤジの形に仕込んだのはオヤジだい。スイッチ入りゃあ、前だけじゃなく、あんたにつっこまれなきゃ満足しねえからよい」

 赤裸々に言い出す親友に、さすがのサッチも恥ずかしい。そして、そこでふと思い当たる。

「もしかしてさあ、こういう話を二人であんまりしねえんじゃねえか?」

 白ひげとマルコはきょとんとして、互いに顔を見合わせた。

「まあ……」
「そうだな……」
「典型的コミュニケーション不足じゃねえか。ああ、おれが聞いててやるから、今この場でしっかり話し合えよ!」

 喧嘩の仲裁はめんどくさいが、惚れあっている二人のこれからがもっと輝くようになるというのであれば、どれほどでも手を貸そうじゃないか。人がよく面倒見のいいサッチは腰をすえて聞くことにした。

「オヤジとしちゃ、マルコには積極的に来てもらいてえんだろ?」

 びしっと指をさされ、白ひげは苦笑した。

「そうだな。いつまでたっても生娘みてぇに恥じらいやがって。こいつのそういう所は気に入っちゃいるが、欲しがられねえのは心配になるな。他に男でもいるのかとか思ってなあ」
「いるわけないよいっ!!」

 叫ぶマルコに、白ひげはぼそぼそと頭を掻く。

「お前、人気あるからなあ。こないだ、そこでビスタと話してるのを、離れたところからじーっと見てる奴がいたぞ。そういうのが割りとしょっちゅうだ」
「……なんかおれの指示待ちとかじゃねえのかい」
「男の勘ってのも馬鹿にならねえぞ」
「お前が気づいてないだけだ」

 二人からつっこまれ、マルコはたじろいだ。

「いるだろう、サッチ」

 腕を組んだサッチは大きくうなずいた。

「ああ、おれも何人かは気づいてる。特に酒飲んでる時だな。普通におっさんの癖に、時々おれでもぎょっとする色気出しやがる。気だるげにしてるお前に欲情してる奴はいるぞ」
「……マジかよい」

 マルコは頭を抱えてうなった。人の気持ちの機微には聡い方だが、とにかく恋愛に関しては盲目的に白ひげを愛しているため、余人など眼中に無い。
自分へ邪まな目を向けられている事など考えも及ばず、白ひげしか見ていなかった。

「だからおれぁ公表してぇと言ってただろうが」
「……悪い虫避けにかい」
「そうだ」

 白ひげは深く大きいため息をついた。
 脚への飾りはつけさせても、それは所詮ただの飾りにしか見えない。マルコへの寵愛にしても、船員皆が知っているとは限らない。だからこそマルコを狙う馬鹿者がいる。

「お前はどうかわからんが、おれぁもうお前無しじゃいられねえ。お前がやっとおれのベッドで寝るようになって、どれだけうれしいかわかるか?」
「う……」

 思わぬ告白に、マルコは真っ赤になった。向かいのサッチがにやにやしている。

「鳥ン時ぁ素直に甘えてきやがるくせに、人間だとなにかっちゃ理由つけて逃げやがる。サッチ、どうしたらいいんだ、こいつは」

 問われて、サッチは喉で笑いながら答える。

「マルコにゃ言い訳が必要なのさ。オヤジに言われたからっていう大義名分がな。敵やおれ達には容赦無ぇくせに、オヤジに関してだけは自分で動けねえ。
 ならもうオヤジがずっと手元に置くしかねえなあ」
「……結構いると思ってるけどよい」

 ぼそぼそ言うマルコに、白ひげは眉間に皺を寄せる。

「それぁやっと最近じゃねえか。なんだ、もうおれに飽きたか」
「ンなわけ無ぇよい。だからこの飾りだってつけてるし、ちゃんと毎晩オヤジんとこ来るだろい」
「じゃあ、それとだ。おれが抱きてえ時は酒飲まねえからわかるだろうが、お前が抱かれてぇ時はどうだ。なんか合図を決めろ」
「う……っ」

 そこが最後の壁だ。マルコが残すこの障害を取り除かねば、白ひげとしては不安が残ったままになる。

「おれが押し倒してから、やっとその気を見せやがる。ちらちら色気覗かせて、おれを煽るくせになあ」
 
白ひげはサッチを見やった。サッチは笑みを湛えながら見返す。

「風呂上りのこいつが色っぽくてな」
「うんうん」
「ズボン履いてるのは、まあ海賊だから仕方がねえ。いつ敵襲が来るかわからねえからな。だが湯上りの汗に濡れて、髪もぺったりしてな。頬が赤らんでるのを見ると、おれぁたまんなくてなあ」
「あー、色気出るよな」

 マルコは赤くなった顔をそむけている。サッチとしてはいいからかいのネタなのだが、まさか白ひげがこんなに饒舌に語ってくるとは思わなかった。

「第一、おれぁお前だから一緒に寝たいとも思うんだぞ、マルコ。おれの体格に合う奴は他にいるが、アトモスやジョズ相手に勃ちゃしねえ」

 サッチは微妙に顔をしかめた。確かに白ひげがアトモスを組み敷く姿など想像できない。

「こいつはなあ、知ってるだろうが、本当に優しいんだぞ、サッチ。お前たちも大概だが、こいつは輪をかけておれの事を気にかけてくれる。それがもう10年だ。よくやってくれてると思わねえか」
「あー、長いねー」
「そうだろう。昔はこいつに偵察やらなんやらで出向かせた事もあったが、こいつがいねえと寂しくてなあ。そういう用事をさせなくなった。
 逆にだ、仕事でも雑談でも、どっか見えるところにいりゃあ、おれは安心する。
 それが年々酷くなるってのは、おれも相当こいつに参ってるって事だろ」
「ああ、うん、おれもそうおもう」
 
だんだんサッチの返事が棒読みになってきた。マルコはさりげなく逃げようとしたが、白ひげの大きな手でがっちり引き寄せられる。

「こいつが目を閉じてにっこり笑いやがると、柄にもなくどきどきするんだ。最近ちと目元に皺が増えたが、そんだけ長い間連れ添ってくれてるんだと思うとうれしくてなあ」
「長いよな、10年……」
「だろう。おれぁこれからも続けるつもりだ。20年だろうと30年だろうとな」
「……長生きしてくれよい」

 ぼそっとマルコが言った。それにサッチと白ひげが注目する。

「おれぁ未亡人なんかにゃなりたくねえんだい。オヤジはおれが守る。それはずっと変わらねえよい」

 ぼそぼそとマルコが言う。それは以前からずっと繰り返している言葉だ。もちろん船員みんなが思っている事だが、マルコはさらに大きく踏み込んでいる。

「むしろ、おれとしちゃぁ、ずっと申し訳なく思ってんだい。鳥の身体を抱けって言ってんだ。頭は必ず今のままにしてるが……まあ、普通じゃねえからよい」
「グララララ! 今更何言いやがる。お前はお前だ。おれぁマルコに惚れてんだ。不死鳥の身体もひっくるめてなあ!」

 その明るい笑顔に、サッチもうなずくしかない。
 白ひげは優しい眼差しで言葉を繋ぐ。

「きれいだぜ。お前の青い焔に包まれた身体はよ。赤髪も惚れてるその焔を、おれぁ独り占めできてんだ。他の誰にも渡さねえ。それに鳥ではあるが、お前の中ってのは極上なんだ。
男でも女でもねえ、お前だけの孔に、おれぁずっとはまってる」
「え、そんなにいいの!?」

 思わず言ってしまったサッチに、白ひげはにやりと笑う。

「おれにとっちゃあ世界一だ。吸い付きといい締まりといい、たまんねえなあ」
「……それはちょっと男としてうらやましいぜ、オヤジ」
「グララララ! おれのがきっちり入って、しかも搾り取れる奴はそうそういねえ。手放せるわけねえだろうが」

 戸惑ったのは最初だけで、一度身体を重ねたら、白ひげは一気に堕ちてしまった。今ではもうマルコは自分のために産まれてきて、自分のために悪魔の実を食べたんじゃないかとまで思う。

「まったく、マルコがおれンとこに来てなかったらと考えると、ぞっとすらぁ」

この甘やかな幸せを手に入れていなかったら。それを考えたくないほど嫌だ。確かに息子たちはいっぱいいるが、彼らがいる幸せとはやや方向性が異なる。たった一人、マルコがいるのといないとでは大きな違いがある。

「ここしばらく、オヤジの機嫌と顔色がいいのはマルコが一緒だからかね」

 だんだん疲れてきたサッチの質問に、白ひげは大きくうなずく。

「マルコを抱かないと、寝たくねえなあ」
「なんでおやすみのキスがセックスになるんだよい……」
「抱きてえからに決まってるだろうが」
「ここんとこ毎晩だよい! いいかげんおれの方がぶっ壊れるよい!」
「グラララ! 壊れねえようにたっぷり慣らしてるだろうが。それに1回で我慢してやってるだろ」
「鳥で抱かれると、おれぁイキすぎるんだよい。どうしても動物系は実の能力に感覚がひきずられちまう。しかもおれは先に1度いかされるだろい」
「ああ、おかげでお前のイイ顔が見れるなあ。よがりまくるのがたまらんぜ」
「オヤジの1回は長いんだよいっ」
「お前を気持ちよくさせてえからなあ」
「さすがのおれも、最近枯れぎみだよい……」

 それが怖かったから今まで同衾してこなかったのにとぶつぶつ言う。だが、その愚痴にも白ひげはうれしそうだ。

「しょうがねえな。今夜もやろうと思っていたが、ちいと休むか」
「……そうさせてくれよい」
「明日はいいか」
「……3日くらい休ませてくれよい。そしたらおれからおねだりして、上に乗るよい」
「そいつぁ楽しみだなあ! グララララ!」

 サッチはだんだん胸焼けしてきた。なんだこの新婚みたいな甘さは。10年一緒なら、普通もっと落ち着くはずだ。なのにまだまだ恋人同士のような瑞々しさを持つこの二人が信じられない。

「……マルコがやりたい時の合図って必要なわけ? 絶倫オヤジにもうめいっぱい絞られてんじゃねえの!?」
「耐え切れなくなったら、お前の部屋に枕持って行くよい」
「やめろよ! 自分の部屋にしろよ! ンな事されたら、おれがオヤジに殺される!!」
「わかってるじゃねえか。グラララ!」

 サッチはため息をついた。のろけを聞くなんて言わなければ良かった。どうせ勝手にらぶらぶしているのだから、もう放っておけばいい。

「心の底から惚れてくれる相手が、はまっちまうくらい夜もいいって!? しかもほぼ毎晩やりまくり!? 同じ船に乗ってるのに、ずっと見えるとこにいろって!? 
 出張なんか行かせねえって!? なにそれ!!」
「うらやましいか」
「うらやましいに決まってるよ!!」

 毎日の食事と、上陸時の女くらいしか楽しみが無い。サッチは料理をするのが好きなので、ちょくちょく厨房を借りるが、その楽しみとはまったく違う。男の幸せだ。

「充実した性生活送りやがってよ〜〜〜!」
「ああ、まあ、ねい」
「もう溜まったりはしねえだろうな」

 サッチは眉間にくっきりと皺を刻み込む。

「さっき、おやすみのキスとか言ってたろ。おはようもやってたりすんのかよ」
「……オヤジがしたがるんだよい」
「キスなら、なんだかんだで毎日5回はやるなあ」
「あーそー……」

 サッチは自慢のリーゼントが乱れるのも構わず、頭をがりがり掻いた。荒れるサッチを尻目に、二人は寄り添って見詰め合う。

「愛してるぜ、マルコ」
「おれもだよい、オヤジ」
「っだーもー!! やってられっかあああああ!!!」

 らぶらぶでキスしている二人に当てられ、サッチは白ひげの膝から飛び降り、後方甲板へと走っていった。それを横目で見送った二人は意地悪そうに笑う。

「すっきりしたかよい」
「ああ、やっぱ誰かに言えるってのはいいなあ」

 晴れやかな笑顔を見せる白ひげに、マルコも小さく微笑む。

「いいのか、サッチはほっといて」
「ああ、いいんだよい。いつもおれをつつくネタ探してるんだ。たまには反撃してやりたかったんだよい」
「とびきりの反撃だなあ、おい」
「……おれも一人でのろけるのはちょっとねい」

 白ひげは豪快に笑い飛ばした。
 その腕の中で、マルコは軽く白ひげにもたれ、身体に残る昨夜の余韻をゆったりと味わった。








<終>







さあ、皆さま!ご一緒に海に向かって「羨ましいー!」って叫びましょう!!(暴走中)
・・・・・うふふふふ、しあわせーvv甘甘ss、こんなに貰えるな・ん・てvvvv
え、自重?それは萌えという欲の海で溺れて、お亡くなりましたが?←言い切ったよコイツ!!?
ありがとうございました、みたらし様!(深深土下座)









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