(ゾロ+狐)







話の展開上、ここではゾロはブルックのことを『姫』呼びいたしますので、ご注意ください。
そして、朧村正に登場するキャラもでてきます。









失った意識を取り戻したゾロが、周りを見てから叫んだ第一声は。

「姫は、どこだ?!」

だった。
・・・・ゾロが寝かされていたのは見知らぬ部屋で。なおかつ己の命を守る武器を取り上げられている状態であり、死にかけた身体であるにもかかわらず。
気にかけるのは、唯一の存在であるブルックだけのゾロに。



「・・・・相変わらずの、健気さですなあ。」



呆れたように、ため息をつきながら。声をかけたのは、稲荷明神に仕える妖狐の弓弦葉(ゆづるは)だった。
彼女はゾロが妖刀を持てるキッカケを作ってくれた恩ある人物ではあるが、いまは礼を払って話している場合ではない。

「おい、姫はどこだ!?」
「お姫様なら、ゾロ様をくれぐれも頼むと私めに託されてから富士に向かわれました。」
「富士に?江戸じゃなくてか?なんで、わざわざそこに行く必要が?」
「奪われた宝刀がある江戸城は、人の力だけでなく霊的にも守られている場所。そのために霊的守護を破る力を霊峰・富士にて得るために向かわれたようです。」
「・・・・そうか。なら、追いかけないとな。」

また危ない目にあう前に、追いつかないと。

そう言って。完全には癒えてない身体を起こし、己の武器を探しはじめたゾロに。

「・・・・一つ、お聞きしてもいいですか?」

不思議で仕方ない顔を隠しもしないで。

「お姫様を、どうして攫わないんですか?」

とんでもないことを、聞いてきた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「お姫様の一族が宝刀と祭っている『狗頭龍』の正体は妖刀。
 それを他者に渡すことなく封じ続けることがお姫様の一族の使命ですが、いまの状況でそれを成すことの難しさはゾロ様も分かっているでしょう?
 『狗頭龍』は将軍家に奉じられた折り、その刀身に宿る力にて将軍を己の意のままに操っています。
 そのために『狗頭龍』にとって邪魔なお姫様は、いま『反逆者』として全国に手配されておりまる。

 分かりますか?全国の、全国民が敵となってお姫様の命を狙っています。
 
 その者たちから、お姫様を守りきることなぞ至難です。
 だからお姫様を死なせたくないなら、ここではない遠い遠い異国の地に連れ攫ってしまえば命を狙われることなく、そこで生きていけるでしょうに。」

何故、それを為さらないんですか?

そう、問う声に。つまらなさそうに、ゾロは答える。

「それをすれば確かに姫は死なないし、俺はしあわせになれるだろうよ。
 だけど、それをすれば。姫は、しあわせにはならないだろうよ。」
「?」
「・・・・・『狗頭龍』が、これから起こす悪さを見てみぬ振りができる人じゃない。一族の使命を忘れることができる人じゃない。自分一人だけ、しあわせになることを考える人じゃない。
 ・・・・・だから、連れ攫ったところで。ただ苦しませるだけだ。」
「・・・・・・・・・・・。」
「姫を苦しませることを、俺はしない。」

絶対に、だ。

ゾロの固い声の硬い覚悟に。また、呆れたように弓弦葉はため息をつき。

「・・・・・本当に、お姫様が好きなんですねえ。」

感心したように、零した。

「・・・・・・うるせえよ。」

それに、そっぽを向いて悪態をつくゾロに。

「・・・・・まあ、守ることは至難ですができないと決まったわけでもないですからね。
 守りきって、そしてお姫様の憂いの元の『狗頭龍』を封じてからでも攫うのは遅くはないですからねえ。」

それなら、二人でしあわせになれますもの。

からかうように続ける弓弦葉の声に、ゾロは答えず旅支度を整え。一目散に飛び出して、ブルックの元に駆けていった。
けれど、そんなゾロの後ろ姿を見ながら。ひどく、悲しそうに弓弦葉は呟く。

「・・・・・・だけど。二人、しあわせになるために立ちはだかる『狗頭龍』は強い。おそらく、ゾロ様よりも。」

しかし、それを教えたところでゾロは考えを変えないだろう。そして、ブルックのためだけに行動するのだろう。・・・・・・それで、自身の命を落とすことになろうとも。
そのことが分かっているからこそ、ひどく辛そうに顔を伏せて。

「・・・・・本当に。二人でしあわせになれたら、いいのに。」

祈るように呟く弓弦葉の言葉は。だけど、いまだ明けぬ暗い冥い夜に無力なまで潰された。













ここまで書ききれたのも、苦情を送ってくださらない広い心の皆さまのお陰です(土下座)
これからも好き勝手書きますが、怒らないでくださると非常に助かります(深深土下座)












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