(ゾロ→ブルック)
話の展開上、ここではゾロはブルックのことを『姫』呼びいたしますので、ご注意ください。
・・・・・追いついた先、またもや敵に囲まれ苦戦していたブルックを助けることができたのはいいが。そのために、また少なくない傷を負ったゾロを見てブルックは泣きだした。
「・・・・泣かないでくれよ、姫。」
そして、その泣く姿を見て。困ったように途方にくれたように、ゾロは声をかける。
いますぐにでも泣くブルックを慰めたいが、今の戦いでゾロの手は血と泥と汗に塗れ、ひどく穢れているために。高貴な人に流石にそんな手で触れることは憚られ、躊躇っていると。
血や泥や汗なぞに縁のないブルックの白い手が、躊躇うことなくゾロに触れ。そして、手当てをし始めたのだ。
「ちょ、待て!汚い、汚いから!!」
その行動にゾロは慌て、すぐさま手をブルックから奪い返して。そしてブルックの手に移った汚れを落とすために、手拭いを渡そうとするが。
ブルックは受け取らず、またゾロの手に触れ手当てをする。
「姫!触ったら穢れるから!!」
必死に言い募るゾロに。だけど、ブルックは。
「・・・・貴方に触れて、穢れるなんてない!!」
強く強く、言い返す。
そのブルックの言葉に、呆気にとられるゾロに構うことなく。
「き、汚いのは私のほうじゃないですか!何度も何度も助けてもらっているのに、ろくな礼もしないで、貴方の前からいなくなる私のほうが!!」
そう、泣きながら言い募るブルックに。
「・・・・・姫は、『綺麗』だ。」
眉根をしかめながら、きっぱりとゾロは否定する。
まさか、そんな言葉を言われるとは思ってもいなかったブルックが固まっていると。ゾロは躊躇いがちに、ブルックの止まらない涙を拭おうと頬に手を伸ばし。
「・・・・・俺が、その任務で城に勤めていた頃。周りが『それは下賤な身だから話しかける意味なんてない』って言っても気にせず、『よく気のつく働きをしてくれる。ありがとう』って言ってくれただろう?
代わりなんざ幾らでもいる使い捨ての下っ端の俺に笑いかけて、礼を当たり前みたいにくれたあのとき。
・・・・・初めて、俺は。人を『綺麗』だと思った。」
触れかけたが、穢れが移ることにやはり強い抵抗があるために結局は触れることのないまま。ゾロは、手を下ろした。
「・・・・・いまも、そうだ。
俺を置いていこうとするのも、関わって死なせないためにしてくれる行動で。
俺なんかが怪我したぐらいで、本気で泣いて。穢れることが分かっているのに、手当してくれる姫が。
・・・・・・とても、『綺麗』だ。」
焦がれるような熱い眼差しで、心から美しいと称賛する言葉に。ブルックは、声を失う。
・・・・・ブルックにとってゾロが挙げていったことは、別段大したことをしたという認識はないのだから。
なのに、それをゾロは『綺麗』だと言い切り。
そして、泣いているために酷い顔をしている自分を『綺麗』だと想うからこそ穢さないために下ろされた、汚れたゾロの手に。
そしてゾロ本人に自覚はないが、まるで口説き文句のような、けれど真摯さに溢れた言葉によって。
今さら、だけど。ゾロに大切に想われていることを、実感したブルックは一気に思考が熱くなり、全身を赤く染めあげた。
そうして、いま、はじめて。ブルックは自分を真っ直ぐに見つめるゾロを、『男』として意識した。
(・・・・・・・いまだ釣り合わない想いの天秤が。いま、釣り合うために少しずつ動きはじめた。)
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