(ゾロ→ブルック)







話の展開上、ここではゾロはブルックのことを『姫』呼びいたしますので、ご注意ください。








富士で得た力により、江戸の地へ入れるようになったことを知ったゾロは。ブルックが泣き止むのを待ってから。

「・・・・・・江戸城へは、俺が先行する。
城の真正面から乗りこんで、大暴れして突き進むことで警備の奴らの目を引きつける間に。姫は、城の裏から侵入してくれ。」

ブルックが、また自分を置いて先に行かないための案を言い聞かせるように、告げる。
だけど、それを聞いた瞬間。

「っ、駄目です!これ以上、私に関われば!」

死んでしまう!!

叫ぶよう告げ、泣き腫らした目をゾロに向ければ。



穏やかな顔をしたゾロが、そこにいた。



死地に向かうも同然なのに。あまりにも穏やかな表情をしているから、訳が分からなくて戸惑うブルックに。

「・・・・そして上手く潜入できたら、俺が江戸城内のあんたの邪魔をするだろう敵を片づけるまで、決して出てこず隠れていてくれ。
 ・・・・もし、そいつらに力及ばず果てることになろうとも。必ず最後の一人まで、致命傷を負わせてから、逝く。
 だから、姫は。安心して、妖刀の封印に専念すればいい。」

案の説明を続ける。
だけど、その言葉を聞いて。また、湧き出してきた疑問を。

「・・・な、んで。なんで、私にそこまで、してくれるんですか?」

半ば、呆然とした面持ちで。何度も何度も思った疑問を、ブルックは口にする。
すると、ゾロから穏やかな表情は消え。途端、バツが悪そうな顔になり。

「いや、それは、その・・・・。」

言い淀む。
だけど、答えを静かに待つブルックを前にして。沈黙を貫きとおせないゾロは、けれど、正直に「姫が好きだから」と言えるはずもないから。

「・・・・全部。俺が、俺のためにしてきたことだから。・・・・気にしないでくれ。」

誤魔化すように、答えるが。そんな答えでは納得できないブルックに、ゾロは問いつめられる羽目になるけれど。



いま、正直に想いを告げるのは。弱みにつけこむも同然だから、言えなかった。



何度も助けたことで、ゾロなんかに恩を感じているブルックは。告白すれば、身分違いの男であるにも関わらず、応えてくれることだろう。
命の恩人の、想いに。義理を重んじて、応えてくれることだろう。
だけど、そんな気持ちが欲しくて。何度も、助けてきたのではないから。
だから、何も口にしない。
そして、なんで、なんで?と疑問しか浮かばず、戸惑い迷うブルックの姿に。言えない想いに、気付かないでいる姿に、ゾロは。
ただ、ただ穏やかに。笑っていた。








(・・・・かなしい、しあわせ。)








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