(布骨)
注・「シャム猫」設定のブルックです。
昨日の夜、一方的にブルックに「デートしよう」と言い放ち。貢ぎ物だと恥ずかしげもなく言いきって渡してきた品を、「明日のデートで着てきてくれ」と言い置いて。
ブルックが嫌だと噛みつき断っているのに全く意に介さず「待っているからな!」と、笑って姿を消したヨーキの言い分なんか聞いてやる必要はない。・・・・のだが。
あんまりにも馬鹿みたいに、ブルックとデートすることを楽しみにしていた顔が。嬉しそうに笑って去っていった顔が、本当に本気で、本心なのか。・・・・・少し、気になった。
嫌われ者のブルックが、待ち合わせ場所に赴いても。昨日と変わらない、嬉しそうな楽しそうな笑い顔を本当に浮かべてくれるのかどうか、気になったから。
・・・・・『確認』。してみようと思ったのだ。
そのために、約束の場所に出かけようと準備しはじめたブルックだったが。そのとき目に入ってきたのは、昨日ヨーキから贈られた青色のワンピース。
・・・・・一応、それを手にとってはみるが。しかし、ブルックにそれを着る勇気はなかった。
以前、一度だけ女物の服を着た時。周り(特に男)の声は、いやらしいほどの賛辞で溢れかえり。そして視線は、下卑た値踏みするかのような煩わしさで満ち満ちて。
・・・・・とても、恐かった。
だから、また同じ目に会うのがたまらなく嫌で。ヨーキから贈られた服を投げ捨て、深紅の軍服に手を伸ばす。
この服は、王国騎士の証。それ故に、これを身に纏っている間は迂闊に誰も声をかけてこないし、視線も合わせようとはしないから。
だから恐怖回避のために着なれた軍服を身に纏い、剣を携えて。ブルックは、ヨーキとの待ち合わせの場所へと向かった。
・・・・・待ち合わせ場所に、ブルックより先に来ていた男は。ひどく、目立っていた。
何か、しているわけではない。ただ立っているだけだというのに、男の存在は他者の目を。特に、妙齢の女性の視線を惹きつけていた。
だけどブルックに気付いた男は、せっかくの整った男前の顔を盛大に崩した、楽しげな嬉しげな笑顔を晒してブルックの元へと来るから。残念そうな溜め息と、失望の視線を貰う羽目になっている。
けれど、そんなヨーキの笑い顔を。自分を厭う顔をしていない、ヨーキを見たブルックは。
「・・・・本当。馬鹿、みたいな笑い顔。」
可愛げのないことを、言い切る。・・・・・が。常に情を決してのせない冷たい声をかすか、あたたかくして。常に情を決して映さない硬い固い宝石めいた深紅の瞳をかすか、溶かして。
かすか、だけど笑うから。つれない言葉を言われてもブルックの好意の表情にきちんと気付いているヨーキは、さらに嬉しそうに笑って。
「あんたが、俺の目の前にいるんだ。浮かれて喜んで、馬鹿みたいになんのは当たり前だろう!」
陽気、に。言い切ったが。
「・・・・あぁ。でも、贈った服は着てくれてないんだな。」
残念そうに、悲しそうに付け足すから。恐怖回避のために着てきた軍服が途端、居心地悪くなった。
そして、あんまりにもヨーキがしょんぼりして気落ちしているから思わず。
「・・・・青色、と。スカートが、嫌いですから。・・・・・着なかったんです。」
言い訳、めいたことをブルックは口にする。・・・・・だけど、一応、青色とスカートが嫌いなのは本当のことだった。
・・・・目も覚めるような鮮やかな明るい空、を連想させる青色は。疎ましい自分の瞳を隠さず、晒しものにする太陽を連想させるから嫌いで。
そして足下がヒラヒラして動きにくいことないうえ、帯剣しづらいのでスカートも嫌いだから。着たくなかったのは本当だったが。
「・・・・・・・。」
だけど、それだけが。理由ではない。
でも、その理由以外で着なかったことを言いづらくて。そのために男の前に、とても居づらくなったブルックは。
「・・・・・・それでは、これで私は失礼します。」
さっさと姿を晦まそうと、身を翻すが。
「待ってくれ、待ってくれ!そりゃ、悪かった!!
ブルックに似あうと思ったから贈っただけで、悪気はなかったんだ!!だから、怒って帰らないでくれ!!
・・・・そうだ!
じゃあ、今から、ブルックの好きな服を探そう!そんで、それを詫びを兼ねて贈らせてくれ!」
謝罪とともに頭を下げ、詫びをさせてくれとヨーキはまたもブルックを誘うから。
「・・・・は?」
そんな言葉は想定外のブルックは、間の抜けた声を出すが。全く、気にもせず。
「あっちに、いい服屋があったんだ。だから、行こうぜ!」
ブルックを手招きしながら、ヨーキは再度誘う。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
その、見当違いな謝罪や誘いに。応じる義務は、欠片ともブルックにはないのだけれど。
「それとも、腹がすいたか?なら、飯屋を先にするか?」
でも、この見当違いな謝罪や誘いをする男は。ブルックを、責めないで許してくれた。
人が恐くて、いつだって保身ばかりしているブルックの行為を、男は気付いてないためかもしれないが。それでも昨日、贈った服を(一方的な約束だったが)ブルックが着てこなかったことを責めないで許してくれたことが。
ブルックは、嬉しかった。
そしてブルックの気まずさを、居心地の悪さを(見当違いな言葉たちだったけど)失くしてくれたことが。
ブルックは、嬉しかった。
だから、その嬉しさのために帰ろうとした足をブルックは一旦、止めるが。けれど、いまだ人が恐いという感情が強いブルックは、ヨーキの誘いの言葉に応じることなく沈黙している。
「んー、それともどっか行きたいところはあるか?つきあうぜ!」
しかしブルックの沈黙なぞ気にもせず、誘うヨーキの楽しそうな声に。馬鹿みたいに、嬉しそうに笑う顔に。
自分が、もし行かないと言ったのなら。この声も顔もなくなって、またしょんぼりして気落ちするのかな、と思ったら。
ブルックの声、は。ブルックの他者を警戒している、恐がっている心を無視して。
「・・・・・・・・・・服屋、だけなら。付きあってもいいですよ。」
男の誘いの言葉に、答えた。
その自身の言葉に。ヨーキよりもブルックの方が驚き、固まるが。
「じゃあ、行こうぜ!!」
それを聞いて、さらに弾んだヨーキの声に笑顔に。断る言葉、は。またもブルックの心を無視して、外へ出ず。
代わりに。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当。馬鹿、みたいな笑い顔。」
またも、可愛げのないことを、言い切る。・・・・・が。
ヨーキの傍を離れないよう、素直について歩くブルックの姿は。可愛くない言葉とは正反対に、可愛らしかった。
(己の裡にある『好意』に気付かない彼女は、彼女の『好意』に気付いている彼に敵わない。)
ヨーキ&ブルックが全く別人ですみません(土下座)
只今、余裕ありそうでないヨーキ船長は必死で口説いておる最中で、そしてブルックさんは無自覚の初恋中です。
でも、まだ自覚していないからブルックさん、つれないです(笑)・・・・自覚してもつれないだろうけど(大笑)
・・・・リ、リクが嬉しすぎて、ものすごく長くなってしまった(おい)ので、すみませんが一旦ここで切らせてください(汗)
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