鴛鴦になる100歩前 (ヨーキ+ブルック)











ヨーキには『夢』がある。
必ず実現させる『夢』がある。
だが、その『夢』に必要な船や楽器たちを手に入れるには、かなりの金が必要になる。だから、ここ西の王国・護衛戦団の戦員としてヨーキは働いて、金を貯めている。
・・・・・まったくもって肌に合わない仕事だが、給金がかなりいいので我慢している。・・・・・が、早く『海賊』やりてえなあ。






そんな、ある日。
黒の軍服をだらしなく着込み、まったくもってやる気なさげに護衛戦団の詰所にいたヨーキは護衛団長に呼び出された。

「・・・働きたくねえなあ。」

正直な心の裡をぼやきつつ、向かった団長室にて。きっちり黒の軍服を着込んだ、アフロの護衛団長からヨーキに渡されたのは山のような書類。

「・・・・・ブルック。なんだよ、これ?」

あからさまに、嫌そうに顔をしかめたヨーキに。心底、疲れたため息を吐いたブルックは。

「・・・・それは先日の護衛任務にて、貴方が起こした問題に対しての始末書です。
 なので、貴方1人で仕上げて明日中に提出してください。
 あと、呼び捨てはやめてください。公私をきちんと分けて、私のことは団長と呼びなさい。」
「問題?俺、何かやったか、ブルック?」
「だから、団長と呼びなさい!」
「まあまあ、いいじゃねえか!ブルック!」
「よくありません!いいですか?軍において『上官を呼び捨てる』なんて、それだけで処罰対象になりえるのですよ!
 ただでさえ、貴方は上の方から睨まれているのですから、揚げ足を取られるような真似は慎みなさい!!」
「で、俺、何かやったか、ブルック?」
「・・・・・・・・・・。」
「なあ?」
「・・・・・・・はぁ。とりあえず、言葉遣いは後でいいです。
 ・・・・先日、貴方、護衛対象を殴り飛ばしたでしょう。
 殴られた方から、こちらに抗議が来ています。」
「?・・・・ああ!あれか!女にしつこく言いよって、力に訴えようとした馬鹿か!!」
「その方は、貴族です。口を慎みなさい。貴方の首をその方は望んでいましたが、貴方に助けられた女性もまた貴族の方でしたので、彼女の口添えで始末書だけで済んだのです。
 後日、その方に感謝の書状を送りなさい。」
「えー。」
「子供みたいに口尖らせない。始末書、捨てようとしない。軍服、着くずさない。そして、言葉遣いをきちんとなさい。」
細々とした注意をするブルックの小言を、しかし、真面目に聞かず流すヨーキの首に。あてられるのは、冴え冴えとした鋼の刃。


「・・・・おいおい、ブル「団長、です。」・・・・団長、危ねえだろ?」

抜刀した姿すらも見せない、ブルックの速斬りの技量に感嘆しながらも。己の首に添えられた細剣に殺意が込められていることを察したヨーキは、素直にブルックの言葉に従い団長と呼び直す。


「いいですか?今回は始末書で澄みましたが、本来なら貴方の首を差し出していたのです。
 そして与えられた任務を全うできず、さらに守るべき対象を傷つけたうえにその相手が貴族だったのですから、上官たる私の首、そして任務に関わった者全ての首を『連帯責任』として差し出さなければ丸く納まらない事態だったんです。
 ・・・・なのに、それだけの事態を起こしておきながら、貴方は反省するどころか真面目に受け止めもしない。
 いいですか?貴方は、貴方の仲間を不用意に『死』に晒した。そのことを、自覚なさい。
 ・・・・できないのなら、ここで私が処断します。」

規律を乱すだけでなく、戦員の命までも危険に晒すような馬鹿は私の部下にはいりません。


冷徹に、冷厳に。斬り捨て、殺すことに躊躇いないブルックの本気の刃に。けれど、全く怯えることなくヨーキは。

「分かった。次からは、決して仲間を巻き込まねえように上手く立ち回る。」

真面目に、真摯に。問題有る答えを出した。

「・・・・・・自覚はできたのに、なんで『もうしない』の一言が出ないんですか、貴方。」

その、嘘偽りなく寄こされたヨーキの言葉に。ブルックは頭が痛いとばかりに、顔を顰め。

「・・・・・・・・・・・・・・もう、いいです。これからは、貴方に護衛任務は任せません。だから、立ち回らなくて結構です。」

疲れたように、諦めたように。肩を落として、ブルックは剣を納めた。

「お、悪いな、ブルック。・・・・実は護衛って苦手でな。」
「今さら改めて言われなくても、分かってますよ。それと、団長と呼びなさい。」
「細かいこと、気にするなよ!」
「細かくないです!・・・・・ああ、もう。どうして団長って呼ばないんですか?」
「ん?そんなの他人行儀みたいで、寂しいじゃねえか!・・・・・・俺とお前の仲、だろう?」

触れあい重なるほど近くまで顔を寄せ、意味深な発言を吐く勝手な勝手な男に。反応して、大きく跳ねた心臓をブルックは認めたくない。

「・・・・・じゃあ、俺はこれからこの始末書に取り掛かることにするよ。またな、ブルック!」

そして、陽気に笑ってあっさりと離れて部屋から出ていく男の背中に。伸ばしかけた手を、ブルックは認めたくない。
そしてブルックを『上司』として見ない男に、一体、自分を『何』として見ているのかと。自分とどんな仲だと思っているのかと尋ねたい感情を、ブルックは認めたくない。
だから、認めたくないものばかりを引き出す元凶たる男をブルックは引き止めることなく、見送ったあと。ただ、ひたすらに。


(・・・・・あれは部下。手のかかる部下。問題がありまくる部下。部下、以外の何者でもない!)


そう、己に言い聞かせ。そして、この考えを補強するためにも必要なことを、願うように口にする。


「・・・・・・・・私のことは、団長と、呼びなさい。」


それは、もはや口癖にもなっている言葉。
護衛戦団員であるならば必ずブルックをそう呼ばなければいけないから、いつもヨーキに注意して言う言葉。
さきほど述べたように処罰対象になるからの忠言でもあるそれは、けれどそれ以上に。ヨーキ曰くの『他人行儀』でありたいから、そう呼ばれることを望んでいる。
だって、そうしてくれれば。男の口から『名前』でなく『役職』で呼ばれれば、ただの上司と部下だと思える。
そしたら意味深な言葉に惑わされることも、引き留めたいと伸ばす手も、知りたいと望む感情も亡くなるのだから。


「・・・・・・・・団長、と、呼びなさい。」


そして、それこそをブルックは望んでいる。・・・・・・はずなのに。
誰もいない部屋のなか、誰にも拾われることのないその声は。滑稽なほどに、震えていた。


(・・・・・だって、彼に名前で呼ばれる心地よさを私は知ってしまっている。)


だけど、それを決してブルックは認めたくないから。


「・・・・・・・・団長、と、呼べばいい。」


(そうしたら、容赦なく『部下』という位置づけにして、私の裡から捨てるのに。)


しかし妙に聡い男はその考えに気づいているのか、決して『名前』で呼び掛けるのをやめない(例外的にブルックが本気で怒っているときは一回だけ『役職』で呼ぶ)のだから、腹ただしい。
そうやって、ブルックの裡から自分を捨てさせないくせに。そのくせ自分は、ブルックを捨てるのだ。


(・・・・・だって、彼は。夢を叶えるための手段として、この国に一時いるだけなのだから。)


一緒にいれるのは、この国にいる間だけ。この国以外では、一緒にはいられない。
だってブルックは、この国に忠誠を誓っている。それゆえに国を捨てることなどできはしない。
けれどヨーキは、この国に何の思い入れもない。それゆえに国を捨てて夢のためにいくことだろう。

それが、現実。

そうして、別たれた道は交ざることはないから。・・・・・だから、ブルックは認めたくない。
認めても、置いて行かれることが確定しているのに。わざわざ自分から、苦痛を選び取るような愚かな真似はしたくない。
だから、ブルックが認めないまま。


「・・・・・・さっさと、どこへでも行けばいい。」


そうしたら、彼を捨てれる。彼に捨てられたのだから、私も捨てれる。
・・・・・だから、その日が来ることを待っている。
ひどく傷つき悲しむことなぞ、たやすく予想できるその日が来ることを待っている。
・・・・・だって、その日こそ。私が彼から解放される日なのだから。












(・・・・・なのに、私が望んだその日に。彼から捨てられるどころか掻っ攫われるなんて、私、予想もしていなかったんですけれど!?)












ルンバー祭り、おめでとうございます!!ですが、場違いですみません!!!(土下座)
えー、海賊になる前の二人の過去捏造です(捏造大好きですみません)。そして、欲しい相手を攫ってご満悦なヨーキ船長ですが、このあとツンなブルックと鴛鴦夫婦になる道は果てしなく遠いです(爆)
なんだか、独り、外しているいる感がバシバシしておりますが。・・・・・い、いたらない作で大変申し訳ありませんが、お祭りの端っこでも構いませんので参加させてください。お願いします。(平伏)