(剣士→音楽家?)
「いやはや、すばらしい治療です!船医さん!」
「お嬢さんは、すばらしい知識をお持ちですね!」
「これは、これは!すばらしいお料理です、コックさん!!」
すばらしい、すばらしい、すばらしい!ヨホホホ!
誰かと会話をすれば、その合間に必ず相手への褒め言葉を入れてオーバーなアクションとともにアフロを楽しげに揺らして謳うブルックは、ひどく嬉しそうであるが。
・・・・正直、相手を褒める行為のなにが楽しいのかさっぱり分からないゾロは、ただ首をひねるばかりだ。
褒められた側が嬉しいというのは、まだ理解できるが逆はさっぱりだとゾロが眉を潜めていれば。意外に気配に聡く、気配りのできる紳士は声をかけてくる。
「おやおや、どうかしましたか?・・・・不機嫌そうですねー。もしや、おやつを食べ損ねましたか?それとも紅茶を飲み損ねましたか?」
一瞬でなくなりますからねー。ルフィさんは、食べることがお好きなようですから。ヨホホホ!
すばらしい早業です!、と。
またまた嬉しそうに褒めてから、ブルックが確保していた、まだ口をつけてはいない本日のおやつ・フルーツタルトをゾロに渡してきた。
「・・・・ガキじゃないんだ。おやつぐらいで機嫌を悪くするものかよ。ていうか、これお前の分だろうが。いらねーよ。」
「ヨホホホ!機嫌がよろしくないときは、甘いものが一番ですよ。」
返品拒否です、ヨホホホ!
キッパリと言い切り、いつものように紅茶をブルックは飲みはじめた。
もはや何を言っても撤回しないだろう、その態度に憮然としながら手の中にあるフルーツタルトを見やる。
小さいながらも計算され飾りつけられた果物の花は見目麗しく、柑橘系で纏められた香りが涼やかに食欲を誘うそれはサンジから受け取ったときに、ブルックが大絶賛していたものだ。
おいしそうです、楽しみです!しあわせです!
あんなにも喜んでいたはずのものが今は彼の元になく、自分の元にあることにひどく居心地が悪い。だけど(的外れではあるが)気遣いから渡されたものを、そのまま返すことも礼を欠く行為であるので一口だけ。貰っておくことにした。
そうして、ブルックに近づき。
「ヨホ?」
首を傾げて不思議そうにしている相手に構うことなく、ゾロはブルックの顎に手をかけて動けぬよう固定してから口を開けさせ、一口分欠けたフルーツタルトを彼の口に放り込む。
・・・・・どうせ何を言っても受け取らないなら、実行して食べさせたほうが早い。
そんな、あまりに唐突で乱雑な(けれど脆い白骨の彼を気遣う優しさが確かにあった)行為に。ただただ、ブルックは固まるが原因たる男は飄々と「旨かったか?」と聞いてみるが。
しかし問うた相手は、いまは声を出そうにも口には食べ物が入っているうえに、食べることを強制させるために自身の手で顎を拘束しているために頷くことすらできないでいる。
返事を貰うためには自分の手を離せばいいだけなのだが、そのとき。不意に、試してみたくなった。
いつだって楽しそうに嬉しそうに笑う、彼の気持ちを知ってみたくなった。
だから。
「なぁ、ブルック。」
相手を褒める、という行為を。
「お前は、優しいな。」
仕掛けてみた。
すると、反応は一瞬で返ってきた。
固まっていた身体は尻尾を踏まれた猫の様に飛び跳ね(しかしゾロの手によって掴まっていたために逃げることはできないでいたが)、固まっていた表情は万華鏡のように変化し続けていき。そうして、最後に浮かべた色はやわらかな。
ドクン
「いっ!痛いです、痛いです!!顔、顔掴まないでください!!ゾロさん!!」
顔が潰れてしまいます!あ、私、顔がなかった!!
ブルックの顔を己から隠すために移した手に、抗議の声が挙がりまくっているが。いまは、そんな些細(?)なことに構っていられる現状ではなかった。
心臓がとにかく煩くて煩くて、思考が熱い。
(なんだ、これは?!)
こんな気持ちに彼はなって、笑っていたのだろうか??嘘、だろう!?
笑う余裕なんてない。楽しくも嬉しくもない、ただ熱いだけの感情に蝕まれ。落ち着かない。
そんな、普段と違う様子を見せるゾロに聡いブルックが気付かずにいるはずもなく。
いつしか抗議の声は消え、宥めるよう静めるように自分を掴んでいるゾロの手に触れる。
トン トン トン トン
穏やかなリズムで、微かな接触は。幼子を眠りに誘うように、すべて忘れていい、と導くようで。
焦った。
なんで焦るのか分からないが、忘れることはできないと何かに急きたてられたが。だけど、いま触れてくるあたたかさを引き離すこともできないまま、緩やかに熱を奪われていった。
そうして、ようやく離せた手から見えた彼に。
少しだけ心臓が煩かった。
(コイは落とし穴。)
9月11日、祝・ゲーム初参戦ブルック!
ということで頑張ってみた初恋物語(死)
補足としては、褒めることのできる誰かがいることが嬉しいブルックさんを分かりたくて真似したら、うっかり恋したという見も蓋もないものですが。・・・・・・スミマセン、甘いものが書けないヤツで。当初予定から思い切り外れました。(自己申告)
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